2017年にオープンしたサンパウロのジャパン・ハウス。
『「世界を豊かにする日本」を海外へ発信する「JAPAN HOUSE」』と銘打って、サンパウロ(ブラジル)、ロサンゼルス(アメリカ)、ロンドン(イギリス)の3カ国に設置された政府管轄のミュージアム。
オープン以来ずっと行ってみたいと思っていたのですが、最近になり、ようやくサンパウロのジャパン・ハウスに行く機会があり、いくらか胸を高らせながら訪問してきました。
正直なところ「え、これがジャパン・ハウスなのか。。。」という印象で、これはやっちまったんじゃないかという感想が先行したのが事実。ただ、このジャパン・ハウス、実際に訪問してみてみると「官製博物館はダメダメだな」と一蹴することもできず、これからの日本のブランディングってかなり難しいな、どうしていけばいいのだろうか、とむしろ研究対象としての興味関心がじわじわと残りました。
ジャパン・ハウスとは
ジャパン・ハウスは外務省が運営する日本の戦略的広報施設です。
韓国や中国に比べて、国際的な情報発信が日本は少ないという考えの下、ロンドン・ロサンゼルス・サンパウロの三都市に戦略的広報施設としてジャパン・ハウスをオープンさせました。
このジャパン・ハウスは日本国内ではあまり知られていませんが、現地在住日本人の中では色々と議論を巻き起こしたこともあり、個人的な興味からその変遷を追いかけていました。
ジャパン・ハウス サンパウロ
サンパウロの日本橋ともいうべきパウリスタ通りにジャパン・ハウスはあります。
料金 | 無料 |
営業時間 | 火曜日~土曜日:10時~22時 日曜日・祝日:10時~18時 月曜日*:閉館日 |
住所 | Av. Paulista, 52 – Bela Vista, São Paulo – SP |
アクセス | パウリスタ通りの南端に位置。地下鉄Brigadeiro駅から徒歩3分程度。 |
このパウリスタ通りには、大型ショッピングセンターやサンパウロ美術館があったり、また日曜日は歩行者天国となり多くの出店が軒を並べるなど、地元民、観光客、ビジネスマンが多く集まるエリアです。
また現地進出している日本企業の現地本社や国際交流基金などもこのパウリスタ通りに事務所を構えています。
日本に興味を持つブラジル人のみならず、近くを通って興味を持ってもらうという意味では、非常に恵まれたエリアだと思います。こうした周辺環境とブラジル日系社会の動きなどもあってか、オープンから1年間で77万人の来場者数がありました(当初目標は13.6万人)。
今回、2018年12月はこの1周年から約6ヶ月が経過しており、ジャパン・ハウスはそのまま繁盛しているのか、また国策として走っているジャパン・ハウスの現状が大変に気になっておりました。
ジャパン・ハウスは日本の何を展示しているのか
ジャパン・ハウスの館内は全部で3階の施設です。
- GF:多目的スペース、ギフトショップ、喫茶コーナー、読書コーナー、外土間
- 1F:セミナールーム、簡易ギフトショップ
- 2F:展示スペース、レストラン
GF(GroundFloor)は、館内の半分程度がギフトショップ、その他に小さな多目的スペース(訪問した時は目立つ展示が一つあるくらいの小さなスペース)、4-5席程度の喫茶コーナー、日本文化に関する書籍が並ぶコーナー、そして外に小さな庭園があります。
1F(日本でいうところの2階)は、セミナールームがあります。新しい展示に切り替わるタイミングなどで、出品するアーティストを招き、小さな講演などができるようになっていますが、普段はガランとしているようです。
そして、2F(日本の3階)が展示コーナー及びレストランコーナー。
上記の写真の左側にレストランコーナーがあり、ここで食事が楽しめるようになっている。まだ営業時間ではなかったので、隙間から撮影してみました。社食のような雰囲気ですね。
展示物は定期的に切り替わっており、日本のアーティストを主題に特別展が開催されています。
僕が訪れた時は『ANREALAGE 「A LIGHT UN LIGHT」展』が行われおり、パリコレにも登場したファッションブランド「ANREALAGE」の衣装を、光の細工の下で展示するというものでした。
大層な芸術感覚を持ち合わせていないため、この展示の奥深さはあまり理解できなかったのが大変残念ではありますが、かなり抽象的な展示であったことは間違いないと思います。
土曜日の午前に訪問したところ、来館者は家族2組だけで、かなり閑散とした様子。展示も展示とあって、来館者は静かに鑑賞していましたが、傍から見ているとどのように鑑賞すればいいのかよく分かっていない様子でした。
なお、僕自身もこうした芸術の鑑賞方法が分かっておらず、ささっと見て帰るしかないのが個人的には残念でした。
ジャパン・ハウスとこれまでの海外における日本
一度きりの訪問で、ジャパン・ハウスを語るのは少し雑な気もしますが、ほとんどの来館者は初回の訪問で判断してしまうものだと思いますので、自分なりに感じたことを素直に書いてみます。
ジャパン・ハウスを評価する上で、ジャパン・ハウスのこれまでとブラジルにおける日本文化について一旦振り返ってみます。
ジャパン・ハウスのこれまでの展示
ジャパン・ハウス/サンパウロではオープンから以下の展示を行ってきました。
- 2017年7月29日~9月10日 『TAKEO PAPER SHOW SUBTLE』
- 2017年11月21日~2018年3月4日 藤本壮介『FUTURES OF THE FUTURE』
- 2018年3月27日~5月13日 山中俊治『Prototyping in Tokyo』
- 2018年4月3日~2018年6月3日 『Oscar Oiwa in Paradise – Drawing the Ephemeral』
- 2018年6月19日~2018年8月5日 無印良品 POP-UP STORE
- 2018年6月5日~2018年9月30日 『Aroma & Flavor』
- 2018年10月2日~2019年1月6日 NONOTAK『次元 Dimension』
- 2018年11月6日~2019年1月6日 ANREALAGE『A LIGHT UN LIGHT』
今回訪問した展示と同様にこれまでの展示を振り返ると、一部の展示を除いて、日本でも東京の一部のハイソなクラスタに親しまれているアーティストによる展示が主のようです。
ジャパン・ハウスが設置されている三都市はそもそも日本に対して親しみを持った人々が多い都市であり、これまで海外の多くの人が持っていた日本とは違う趣向を出していくべきであるという思いが感じられます。
これまでの日本とは以下のようなものです。
- 漫画
- アニメ
- 寿司
- ラーメン
- トヨタ(の車)
- 芸者
- 侍
日本文化を何かしらの軸で左右に分けるならば、ジャパン・ハウスが展示している文化はこれまでの日本とは対極にあるもののように思われます。もちろん、「侍や芸者」と「ジャパンハウスの展示」には文化の歴史的なつながりはあると思いますが、日本文化を表面的にしか捉えられない多くの外国人にはそうしたものは存在しないに等しいものです。
ブラジルにおけるこれまでの日本
この対極にある2つの文化商品のどちらかを選択するというものではありませんが、世界最大の日系人社会を抱えるブラジルでは少なくとも以下のような日本文化が既に「展示」されていました。
- 日本まつり
サンパウロ日本祭り。海外における日本文化広報の意義と課題について考えてみたこの週末にブラジルはサンパウロ市内で行われていたFestival do Japão(日本祭)。今年で第19回目だそうです。 日本文化が海外でCoolだと言われるようになったのは、ここ10年くらいのように思いますが、19年前からこうした大規模... - 県人会による各種イベント
- リベルダージを始めとして多くの日本食レストラン(寿司、ラーメン、焼きそば、たこ焼きの類)
- ヤクルトや日清など一部のBtoCメーカー
- コスプレなどのアニメイベント
- ジャスピオンなどの特撮
ジャスピオンってなんだ!という方はググってみてください。ブラジルでは1980年代に日本のアニメや特撮コンテンツが輸入され、テレビで放映された影響で、多くのブラジル人が馴染みを持っています。ギャバンなども同様です。
ついには直近においてリメイク版までもが作成されており、日本人が想像している以上にこうした文化がブラジルでは強く残っています。
ジャパン・ハウスのブランディングの1つのポイント
こうした文化のギャップは決して悪いことではありません。
既にブラジルに普及している日本文化から生まれた「ジャパンブランド」を入り口にして、新しい商品を売り込むというのはよくある手法だと思います。
今は知られていない日本を長期的な目線でゆっくり育てていく、ということは、これから日本人が減少していく中で重要なことです。中国のように量で戦うことは難しくなっていくため、これまで内需を中心に発展してきた日本企業が海外で広く文化普及をしたりすることもできません。
一方で、質を中心に戦うことを考えた時、重要なことは「他が真似できない独自性を持っているか」ということです。
ITや家電のように、競合する国が日本と同じシーズを持っているのであれば、その路線を継続した末に待っているのは面で圧倒されて、これまでの普及活動をすべて持っていかれてしまうわけで。
シーズとは、研究開発や新規事業創出を推進していく上で必要となる発明(技術)や能力、人材、設備などのこと。 … 「ニーズ」という用語と対比で用いることもあり、その場合はニーズが客の要望によって必要とされるものである一方で、シーズはメーカー・企業などが必要に応じて提供する技術や商品などを意味する。(PatentResult)
この前提を下にジャパン・ハウスを振り返ってみた時に、これまでの展示は日本のシーズに適ったものなのか、非常に悩ましく感じたのです。決してジャパン・ハウスが間違っていると感じたわけではなく、「日本のこれからのシーズって何なのだろうか」と。
これまでのように侍や寿司でも悪くはないのですが、「シンガポールのマーライオン」のように、ブランドが陳腐化して、海外の人々を惹きつけることができなくなる恐れもあります。
アニメや漫画は当面は日本ブランドの代表選手として頑張ってくれると思いますし、他の側面で日本政府が支援しているものと思いますが、これにしてもNetflixなどがオリジナルアニメを作り始めています(実際の制作陣は日本人ですが、ノウハウはどんどん流れていきます)。
日本はこれから高級展示になっていくのか
ジャパン・ハウスが正しいかどうかは判断できない、という煮え切らない結論で恐縮ですが、逆説的にいえば、ジャパン・ハウスを運営している人々(電通などの広告代理店や外務省など)は、これからの日本はこうした領域で戦っていくべきであると考えているのだとすれば、この施設の味わいがさらに深くなります。
またそれとは別に
- ジャパン・ハウスって日本の政治的な発信するんじゃなかったっけ
- これに年間数十億も使うの?入場料無料じゃないか
- これまでの日本ブランド利用した方がいいと思うんだけど、現地の日系社会と結構断絶している(という噂)
など言いたいことはたくさんありますが、日本という看板を背負って生きていく日本人として、ここらへんの課題は自分自身の周辺の問題とも密着に関連しているなと考えた次第です。
ご質問はこちら Comment/Question