この週末にブラジルはサンパウロ市内で行われていたFestival do Japão(日本祭)。今年で第19回目だそうです。
日本文化が海外でCoolだと言われるようになったのは、ここ10年くらいのように思いますが、19年前からこうした大規模な企画をされている日本コミュニティの強さに驚かされます。またブラジルといういう日本から遠くはなれた異国において、日本のプレゼンスが非常に大きいということの証でもあります。
海外で行われている日本に注目したイベントに参加するというのは初めての経験でして、こちらに来て間もないものの、若干のノスタルジーを感じてしまいました。久しぶりの日本食も郷愁を呼び起こす一因だったかもしれません。長い時間の中で若干味付けなどは変わっているかもしれませんが、それでも日本食を食べるとほっとします。
一方で、日本文化をテーマにしたこのイベントに違和感も感じました。日本文化のアピールは大いにするべきだと思うのですが、これでいいのだろうかという危機感に近いものかもしれません。
この感覚どこかで感じたものだなと考えていたら「ああいつぞやの那覇観光の時に感じた感覚だ」と思い出しました。
どうしたら先人達の築き上げてきた土台が次の世代の文化を支える礎として機能するのだろうかという思いで、以下雑記を綴っていきます。
少し長いですが最後まで読んで頂けると嬉しいです。
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Festival do Japãoとは
Festival do Japãoはサンパウロを中心に活動を行うブラジル日本都道府県人会連合会(県連)が主催する日本をテーマにしたラテンアメリカ最大の日本イベント。
日程 | 2016年7月8日から10日 |
場所 | São Paulo Expo Exhibition & Convention Center |
入場料 | 23レアル |
アクセス | 地下鉄JABAQUARA駅から無料送迎バス |
日本でいうところのビッグサイトのような会場で、日系企業、日系団体、各県人会らのブースが軒を連ねます。
県連は各都道府県からの日系移民たちの互助会として発展してきた日系コミュニティ最大組織
2014年に18万人、2015年に15万人を動員している非常に大きなイベントで、僕が行った日も大行列でした。
企業は主に自社製品の展示や販売を行っており、その他CSRの延長線上で行っているスポーツイベントが見られます。
日本人として嬉しいのが、各県人会が食事を提供する出店エリア。都道府県ごとに郷土食の販売をしており、ブラジルでこんなものまで食べられるのか!と驚嘆します。
その他、日本の文化普及を日常から取り組んでいるJICAや国際交流基金を始めとした日系団体による展示ブース、そして中小の日本に関わるグッズを販売している企業のPRブースもたくさん並びます。
奥の方には用意されているちょっとしたコンサートホールや一般のエリアで一定の時間ごとにイベントが開催されており、飽きがこないように様々な工夫が見られました。
日系人の街リベルダージに見られる日本文化
今回のイベントを振り返る前に簡単にサンパウロ市内で見られる日本文化について。
日系最大のコミュニティがあるといわれている東洋人街(リベルダージ地区)周辺には、日本食が多く取り揃えられているスーパーからラーメン屋、寿司屋、沖縄そば屋まであります。
やきそばやたこ焼きはちょっとしたスナックとして販売されており、焼きそばに至っては完全な市民権を得ています。日系人街のみならず、サンパウロの他の地域やリオデジャネイロでも見かけました。
その他にも模造刀や日本人形が販売されていたり、招き猫の置物や和食器、そして日本庭園まであるのが日系人街です。
街の中を歩いて抱くのは、古典的な日本文化の街という印象です。
最初に日系移民がこちらにやってきたのは100年以上前、ブラジルの奇跡と呼ばれた時代が1970年台、この間にやってきた人々が現在の日系コミュニティに属する人々のほとんどであることを考えれば不思議ではなく、その時代の日本がそのまま残っているといったところです。
もちろんこうした古典的な日本文化をここまで普及させた先人たちの偉業には頭が上がりません。
日本文化イベントの目的って何だろう
普段の生活が営まれている日系人街同様に、日本祭りもまた非常に古典的な日本文化が並びます。
華道、太鼓、伝統料理、郷土料理、ラジオ体操、どんぐりころころ、お箸の使い方、将棋・囲碁広場、畳で寝れるスペース。
僕も大好き(鳥取和牛牛丼と喜多方ラーメン食べました)ですし、日本が忘れてはいけない日本精神がたっぷり盛り込まれています。
しかし、この祭りって何のためにあるんでしょうか。
僕はこの類のイベントは「日本文化を売るイベント」だと思っています。
日本文化を売るために、どうやって彼らの興味関心を惹きつけて、どうやって顧客層を広げていくか、こういった観点で運営しないとおそらく以下のような問題が発生します。
日本文化ってかっこいいよな!見てる分には楽しいよな!でも金払ってまで買わないよな!
もう既にこういう事象って起きてると思います。
- 華道って綺麗だったなぁでも生花買って帰るほどじゃない
- お箸の使い方ってこうやるんだ、面白いなぁ!でも家帰ったら使わないよ
- 囲碁ってクールだな!でも来週からはPS4やるんだ。
こうした現象は珍しくなく、イベント企画者もブラジル人も悪く無いと思います。だって、日本人だってこういうイベント行ったら同じようなもんでしょう。興味は維持されませんから、今後の消費にはつながりません。
ただ、単純に今の消費者には刺さらない文化というだけで、伝え方が悪いわけでも、ブラジル人が日本文化を軽く見ているというわけでもありません。
那覇の国際通りがフラッシュバックする「文化商売の高齢化と硬直化」
前段がアホみたいに長くなりましたが、このように、みんな真面目にやっているけど、目的が達成できないことほど悲しいことはありません。
でも、僕はこれと同じような構造を沖縄の那覇市中心にある国際通りを手始めに沖縄全体でよく見かけました。でもやっぱり一番ひどかったのが那覇です。
沖縄で経験した1回目の感動と2回目の落胆
僕はこれまで2回沖縄に行きました。高校の修学旅行とその10年後に。
沖縄って日本の中ではかなり特徴的な文化だと思います。言葉も全然違うし、現地の人々のゆったりとした会話、食事も普段食べないような食材が食べられます。
だから初めて行くと感動します。こんなに刺激的な文化なのか!こんなにきれいな海があるのか!こんなに暖かい人々がいるのか!と。そしてシーサーのお土産とか買っちゃいます。アロハシャツとか。
そんな感動体験を忘れられずに今年10年ぶりに再び行ってみました。
10年間も経過しているわけですから、記憶も薄れているし、新鮮な気持ちで行ったんですが、あまりに何も変わっていなくてびっくりしました。
本当に何も変わっていなくて、途中から逆に少し新しいスポットがあったことにびっくりしたほどです。
お土産も少しおちゃらけたシーサーの焼き物とかちんすこうとか、”海人”と書かれたTシャツとか、よく見るクッキーがどこに行っても同じように売られていました。
新鮮味が全くありませんでした。
ゴールデンウィークに行ったのに、国際通りは閑散としていて、別の地域に行っても渋滞なんて無縁。
この状況はやはり数字に顕れていて、以下のような記事を見つけました。
(要因は他にもあって、燃油サーチャージがゼロになって海外に行きやすくなったことも影響していると思います)
一度投資回収してしまうと、後は細々とやっていくのが楽
沖縄だって昔は多くの日本人がこぞってやってきたわけです。
初めて見る沖縄は刺激的で、周りにクチコミを広げることもあったでしょう。その話を聞いた人が沖縄へ行き、旅行客は増えていきます。
そうして成功を感じた商売人たちは沖縄の文化がこんなに売れるのかと知り、それが成功体験として心に残っていきます。正攻法として同じことを続けていきます。一度得た成功体験を繰り返すことは、労力も少なく、売上は一定程度あるでしょうから。
しかし、このように同じことを続けていけば、やがて売上は低下していきます。最初はちょっとだと思います。売上が下がると通常は焦ったり、何か新しい対策が必要だと思うところですが、既に投資金額を回収していて、小規模事業者にはたいした衝撃はありません。売上が下がったとことで生活は十分にできるますから。
一方で、人々は数年後あの刺激をもう一度味わいたいとまた行きます。僕のように。
でも再び行ってほとんどの人が失望するでしょう。何も変わっていないわけですから。3度行けばもう十分という気持ちになるでしょう。(マリンスポーツなど具体的な目的があれば別です。沖縄でしか見れない熱帯魚とか最高に楽しそうです!)
文化が生み出す3段階の魅力
思いつきで人々が感じる魅力を区別していくと以下のような感じでしょうか。
①初めての体験が生む魅力→②その周辺にある文化に感じる魅力→③既知の文化が生み出す新たな文化に感じる魅力
①を感じて②に対する興味が湧き、②を体験してさらに③に興味を持つというイメージです。
沖縄では①を経験して、2回目に行った時にはカヌーとか以前できなかった経験をして②を少し味わいました。でも③に対する期待が全く得られませんでした。
「お前がただ知らないだけだろう」というのはその通りですが、よっぽどの興味がない限り一般消費者は②で折り返して、別の旅先を探すわけで、観光地から積極的にアピールする以外に方法はないと思います。
別に新しいことをしなくても、新たな消費者が次々に来れば、常に①と②までが繰り返されて生活はできるんだと思います。人口が増えているときはまさにそういう経験ができます。
ただ、多くの日本人はみんな沖縄に行ったことがあって、しかも人口は減っている。その限られた人々に来てもらうためには③を作らないといけないのです。
しかし、生活できる程度の売上に満足してそれを怠るとどんどん足は遠のき、そのうち生活すらままならなくなります。当たり前ですが、こうなると文化の更新をする余裕などありません。
そして誰も来なくなります。
ブラジルにおける日本文化はまだ第1段階。これから先このままだと沖縄と同じ状況に
ブラジルの話なのに沖縄の話が長くなり申し訳ないです。
さて、そういう意味でいうと、ブラジルにおける日本文化は世界的にまだ第1段階にあるように思います。
今まで情報としては知っていたけど、生で触れることのなかった日本文化は今はとても珍しく、またアニメや漫画に対するイメージが誘引となって、こうした古典的な文化がとても魅力的に映ります。
だからまだ古典的な文化でも通用しているように見えます。
そしてまだまだこれから出てくる中間層が新たなマーケットになって、こうしたイベントには人が来るでしょう。
でも沖縄が辿った変遷よりももっと早いスピードで日本文化が陳腐化していくと思います。インターネットがこれだけ普及して、動画も見れて、SNSで噂も聞ける。
これだけ大きなイベントで毎年同じような内容(過去の歴史は知りませんが、19回目にして日本文化があまりに古典的なので単発的なイベントはあっても日本文化の大枠のイメージ設定は変えていないのでしょう)では、すぐに陳腐化していきます。
というか、個人的には既に陳腐化しているのではと感じました。
日系人を除いて来場している人々は年齢層が高く、若年層はイベント主催者側の人々と思しき子どもたちがほとんどのように感じました。
豊富な資金があって、同窓会としての立ち位置だけでやるならそれでいいんですが、既に日本文化に興味のあるコア層が中心になってしまっているのではないかと。
そもそも第3段階まで既に知っている若年のブラジル人。さらなる新しさを仕掛けないと厳しい
だって、アニメや漫画で古典的な文化は見ていて、その既存文化の周辺も、それが生み出した比較的新しい文化、例えばアニメ、コスプレは言わずもがな村上春樹まで体験済みです。
古典回帰は一つの体験ですが、たまにで十分です。彼らはもっと新しい日本文化を追いかけているように思います。
でも、こちらのコミュニティの中心となっている日系人はこちらの生活も長く、高齢化しています。
このギャップをどのように埋めていけばいいのでしょうか。
正直答えはない。けど、これって企業の衰退とダブって見える
偉そうに記述していますが、答えは分かりません。
ただこの構造は老舗企業が衰退していく姿にとても似ているように思います。これは前職でよく見てきた窮境に陥った企業の状況。
過去の知見に縛られたオーナーが自分の知っていることだけでビジネスを展開していく。 現場の若手社員は時代の変化を感じていて、違和感を感じていたり、別にしたいことがあるけど、オーナーが強すぎて文句が言えない。 そのうち業績が悪くなるけど、誰も変える勇気がない。 いざ財務状況が大変な状況になった時にはもう時間も余力も残っていない。
県人会のトップの権力が強いのかどうかは知りません。そこは問題ではありません。
ただ、若手からの更新された知見(=更新された文化)をあまり知らないであろうことは、日本祭りの状況からみて推測されます。
また、ブラジルと日本が物理的にかなり離れていることもあり、更新された文化を有した若手が生まれにくいと思っています。
これは那覇で感じたことと同じかもしれません。東京から離れているために、東京を始めとした本島のどのようなものがトレンドになっているのかが分からないのです。
トップと若手の関係以前に、更新された知見をどこから仕入れるのかが最も大きな問題だと思います。
日系企業と日系コミュニティはもっと協力しよう
そろそろ話を閉めます。
最初に記述したようにこの日本祭りには企業ブースがあります。
で、この企業ブースが明らかにその他の現地日系人コミュニティのブースとは一線を画しています。一言でいうと「かっこいい」。日本的な要素の中でかっこいいデザインのブースを作っています。
金あるんだからそりゃそうだろ、ではないんです。
そういう観点を持ちうる日本人がすぐ隣にいるということが重要なんです。これは非常に大きな資産です。
だけど、この日本祭り、企業エリア、県人会エリア、小売エリアがあまりにもぶった切られていて、コンセプトの統一感が全くないんです。
全体運営は県人会がやります。トヨタさんはここ、キリンさんはここ、県人会はこっち。あとはどうぞそれぞれ好きなようにブース作って下さい
みたいな声が聞こえて来ます。まぁ効率的な運営ではあるし、ごくごく一般的な運営方法だと思います。
でもこうした運営方法だとすれば、せっかく更新された文化を有する日系企業の知見があるのに、それは他のエリアには飛び火しません。
企業からすると「お付き合い」なのかもしれませんし、そんな労力をかけることはできないのかもしれません。
だからこそ、運営本体がうまく全体的な運営にも巻き込んでいくように仕向けていかなければなりません。
たいていの場合、変化には通常の業務以外の業務が必要で、若手が従来業務でヒーヒー言っているところを経営者は上手く盛り立てて、会社を改善していかなければいけないわけですから。
長期的な目線に立ってお互いにどのようなメリットがあるのか深い議論が必要そうです。
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