日本では刺青=ヤクザでして、まず生で見る機会はありません。刺青にしても、タトゥーにしても、ヤクザの象徴でしかないため一般の人にとって関心の対象ではありません。
しかしながら、ここブラジルではファッションの一部でして、社会階層問わずみなタトゥーをしています。サンパウロに来て以来、タトゥーに触れる機会が多く、特に現在住んでいるシェアハウスでよく付き合っているのがタトゥーアーティストだったりするため、タトゥーがどのくらいにここで普及しているのか日々実感しています。
そんな日々を過ごしていたところ、そのタトゥーアーティストから一緒にTattoo Weekに行かないかと誘われまして、先週末行ってきました。
Facebook TattooWeek
Tattoo Weekとは
Tattoo Weekはタトゥーに関して言えば南米最大の集会でして、サンパウロ北部のビッグサイトのような施設で行われます。今年で10年目になります。
とにかくタトゥーに関することなら何でもありまして、タトゥーショップからTattooのデザインを模した関連グッズの販売、施術用マシン・機器部品の販売、デザイン集などの書籍販売までタトゥー関連の商材は何でも手に入ります。
うち8割ほどがタトゥーショップでして、その場でタトゥーの施術をしてくれます。全部で約500店舗が出店しており、僕の友人も所属しているスタジオのブースで自分のデザイン画やタトゥーの販売をしていました。
イベントブースも中々の盛り上がりようで、ダンスバトル、ミスタトゥー、タトゥー品評会、ボディペインティング女性やマッチョ女性と写真を一緒に撮ろう的なものまで広くありました。
想像以上に幅も深さもあるタトゥーマーケット
ブラジルのタトゥーマーケット全体について言及するほどのポル語力がないため、不明ですが、このTattooWeekだけでもかなりの金額が動いています。
公式HPによれば今年の入場者数は55,000人が見込まれています。入場料は50レアル(1600円)ですから、入場料だけでも8,800万円になります。
また、イベントブースは全部で567区画あります。友人によれば1区画借りるためには3日間で3,500レアル(11.2万円)の賃料がかかります。これで約6350万円。
入場料と合わせて約1億5,000万円になります。
これに合わせて物販の売買が発生するわけです。そして驚くべきはこうしたイベントはブラジル中の各年で年中行われているということです。
またこの物販が冒頭にも記載したとおり、施術だけではなく、デザイン画、ボディペインティング、タトゥーシールといったタトゥーと比較的近いものから、それをプリントしたシャツ、パーカー、各種小物の販売、さらにはこれらの産業を支える施術機器や専門書籍(日本語のデザイン集も)まであります。
タトゥーというのは、もはや彫り物そのものではなく、芸術の一分野として自立しており、そうなると展開される幅もかなり広くなるというわけです。
そしてこの産業はブラジルどころか世界各国でタトゥー文化は日本人が思っている以上に根付いていたりするわけでして、ちょっとほっとくことはできない市場なのです。
アメリカのタトゥー産業の市場規模
ブラジルほどで全国民に普及はしていないかもしれませんんが、アメリカも大きなタトゥー市場を持っています。
もしかして、皆さんアメリカのタトゥーはギャングや若い不良の文化だと思っていませんか。
アメリカの調査会社IBISのレポートによれば、約4,500万人のアメリカ人がタトゥーを体に施しており、最も大きな市場を持つのは30代の人々だそうです。さらに、この市場は今でも成長しており、30代の男女がタトゥーを有している割合は、2008年の14%から21%にまで拡大しています。
5人に1人がタトゥーをしているというのは、多くの日本人の想像よりも高いのではないでしょうか。
そして彼らが創りだす市場規模は7億2,200万ドル(約760億円:IBIS調査:2015年)で、2010年から2015年までの5年間の平均年間成長率が9.8%とかなり高い水準です。
これを日本の産業と比べるとJリーグの営業収入が868億円(2014年)証明写真で920億円(2012年)、スマートフォンケース802億円(2013年)、同人誌757億円(2014年度)という規模です。
また成長率でいうと、介護で9.9%(2008-2013)並の成長率というわけです。
地味な産業のようにも見えますが、いかに人々の生活に溶け込んだ産業であるか考えると、中小企業にとっては魅力的なマーケットです。
参考 Tattoo Artists in the US: Market Research Report【IBIS】 / 市場規模マップ
オーストラリアのタトゥー産業の市場規模
オーストラリアもまたタトゥーが普及した国の一つです。
オーストラリアにおけるタトゥー産業の市場規模は約100万ドル(約15億円:2015年)です。アメリカと比較するとだいぶ小さいように見えますが、こちらは飽くまでタトゥースタジオのみの市場規模であり、周辺産業は含まれていないようです。
また年間の平均成長率は2011年-16年で約3.9%です。アメリカほどではないものの、まだ今後の成長も見込まれています。
参考 Tattoo Studios in Australia: Market Research Report
日本企業にとって参入余地
市場が大きい大きい言っていますが、この程度の数字ではハッキリ言って日本企業が参入するレベルではないのかもしれません。少なくとも大手企業は諸事情含めて魅力的なマーケットとはいえないかもしれません。
ただ、TattooWeekへ行ってみて、日本の文化との親和性が高い産業だなと思いましたし、基本的には個人事業主の延長線上でやっているお店がほとんどでしてマーケットリーダーがいるというわけでもないようです。
プレイヤーやタトゥー産業の実態について正確な知識があるわけではないので、参入の難易度については分かりませんが、TattooWeekに行っただけでも十分ないくつかの気づきがありました。
中小企業で特化している分野があれば戦える余地は十分にあるのではないかと思います。
コンテンツ管理
冒頭でも言及しましたが、タトゥー産業の中心となるのはそのデザインです。
TattooWeekでも各店舗のスタッフ達が自らデザインしたタトゥーを前面に配置して、お客さんを呼び込んでいました。
TattooWeekという一大イベントに集まるアーティストだからというのもありますが、タトゥーアーティスト達は自分たちのデザインに高いプライドを持っています。その他の美術家、陶芸家や画家と同様です。
その芸術性からそのデザインだけを売るということもありますが、その他の著作物と同様にこうした商品はインターネット上では管理が困難です。
ほとんどのデザイナーやショップはFacebookやInstagramを導入していて、作家としての自分を売り出すためにインターネット上に作品を露出させていますが、これは常に模倣の対象になります。
また買い手にとっても、自分の体に彫ることのできるタトゥーの数は限られているわけで、可能な限り多くのデザインの中からベストなデザインを選択したいと思われます。さらにはそのデザインの背景にあるストーリーも大切なものになりますが、こうした情報を一括で検索するためのツールは今のところ少なくとも大きなものはないようです。
日本はアニメや漫画、書籍などの著作物の管理について一日の長があるわけでして、そうしたノウハウは同様にタトゥーにも活きてくると思われます。
和柄の販売
日本には長い年月をかけて育まれた独自の刺青文化があります。そして、海外のタトゥーアーティストからするとそれはやはりクールなデザインとして受け入れられています。僕の友人は日本の彫師を非常に尊敬していて、日本の情報をいつもキャッチアップしています。
今回のイベントにおいても、非常に多くの日本的な要素(龍やなまず、瓢箪まで)が含まれたタトゥーが展示されていました。また友人のタトゥーショップに行った際には日本語のデザイン集が多く揃えられていました。
また、著作権の問題はあるものの、ドラゴンボールやマリオなどのアニメ・キャラクターもタトゥーデザインの一角を成しています。
個人レベルでいえば日本の芸術家(絵画でも陶芸でも写真でも)は自らの美術品を売り込むマーケットとして捉えられますし、企業にとっても自社で有効活用されていないデザインをタトゥーに特化させてデフォルメさせれば、新たな収益源になります。
もちろん地位の確立まで時間はかかるものの、インターネット上で地位を確立させれば、世界中のファンを取り込むことができます。
医療・衛生産業
コンテンツ関連に比べると参入可能性がどの程度あるのか不明ですが、中小の医療産業にとってはかなり魅力的なマーケットだと思います。
タトゥーの作成プロセスはほとんど医療行為に等しいです。人の肌を削って、そこにインクを注入して、最後に殺菌して、保護膜を作ってという流れです。
しかし、各ステップにおいて衛生面の怪しさが際立ちます。
特にインクの注入と殺菌、殺菌後の処理については本当にこれでいいのかと思うものです。
- インクの注入
人体にインクを塗り混むわけですが、このインクの安全性は長期的に見た場合にどのようなものなのか明確ではないように思われます。
5年前の記事ですが、ドイツで専門機関が調査したところ、ドイツ国内のタトゥーインクのうち3分の1が違法な薬品が含まれており、3分の2は人体への使用を想定した薬品ではないものが含まれていたようです。
啓蒙活動も同時に必要だとは思われますが、十分な医学根拠があるのだとすれば、インクは消費量の大きさ、金額から言って非常に魅力的
なお、アメリカ、欧州や日本では化学物質安全性データシート(Material Safety Data Sheet/MSDS)と呼ばれる書類によって商品に含まれる化学物質の内容を証明する仕組みが整っています。
- 術後処理(殺菌・保護)
こちらについても医療知識は皆無なので不明ですが、端から見ていてこれで良いのだろうかというレベルです。とはいえ、どの店舗も以下のような術後処理を行っていたため、これでも問題はないのかもしれません。
というのも、Tattooの術後処理はワセリンを塗って、ラッピングをして終わりというものなのです。
この処理でどの程度の感染リスクがあるのか不明ですが、より安全で(残念ながら安い)処置方法があれば興味深いのですが、医療関係者の方どうなんでしょうか。
個人的にはコンテンツ管理が面白そう
自分自身がタトゥーや刺青を入れることは人生において100%ないわけですが、コンテンツ管理は芸術家と消費者を結ぶという意味で非常に興味深いです。
医療分野ももし参入できれば世界全体のマーケットはそれなりのサイズがあるものの、国一つ一つの規模が小さいために、輸送コストや管理コストを考えるとちょっと難しいのかもしれません。
一方でインターネット上のコンテンツ管理であれば小さいマーケットを一つのものとして扱えますし、データ単価も悪くありません。
日本のIT企業の皆さん、どなたか一緒にチャレンジしてみませんか。
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