ブラジルの殺人件数は日本の自殺率に比べればマシというのは本当か

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ブラジルの治安の悪さは日本人にとってはどうしても頭から抜けない固定概念のようです。

日本に比べて危険かどうかという意味では間違いなく危ない国なのだと思うので、その点について語る意味はあまりないと思っています。もちろんリスクを減少させるための注意というのは皆さんが知るべき話ではありますが。

しかしながら、そうした「ブラジル=危険」という固定概念から生まれる面白い風説というのもあるものでして、先日以下のようなツイートを発見しました。

さらに最近日本財団が4万人を対象に行った調査では、25.4%(約4人に1人)が「自殺したいと考えたこと」があり、さらに6.8%の人々が「実際に自殺未遂をしたことがある」という結果になったそうです。

明るさ溢れる国で問題となる殺人と生真面目すぎる国で問題となる自殺の問題。どちらが本当に危ないのかデータを検証してみました。

追記1

当記事はブラジルが安全という旨の記事ではありませんので、悪しからず。直近、日本人が襲われる事件が頻発しており、ブラジルはまだまだ治安に不安を抱える国であるということは忘れないように。

追記2

調べてみたところ、このツイートは2009年頃のツイートが幾度と無くリツイートされたものであり、そもそもの元ネタは不明でした。それはそれとしても考察自体は興味深いものでしたので、そのままご覧ください。

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日本とブラジルの時間あたり自殺率と殺人件数

まずはそれぞれのデータを整理してみたいと思います。

※分母となる時間は24時間/日×365日=8,760時間としています。

日本の自殺者数の推移

まずは日本の自殺者数・10万人あたり自殺者数の推移は以下の通りです。

自殺者数
(総数)
自殺者数
(時間あたり)
1997
24,3912.78
1998
32,8633.75
1999
33,0483.77
2000
31,9573.65
2001
31,0423.54
2002
32,1433.67
2003
34,4273.93
2004
32,3253.69
2005
32,5523.72
2006
32,1553.67
2007
33,0933.78
2008
32,2493.68
2009
32,8453.75
2010
31,6903.62
2011
30,6513.5
2012
27,8583.18
2013
27,2833.11
2014
25,4272.9
2015
24,0252.74

出典 厚生労働省

バブル崩壊後の長期に渡る不景気、またリーマン・ショックを乗り越えて、自殺者の総数減少と共に人口あたり、時間あたりの数値も減少傾向にあります。

それでもまだ1時間に3人近くの方が自殺によってお亡くなりになっており、同じ日本人としては本当に悲しい気持ちになります。

また人口あたりの自殺者数も10万人あたり18人以上で、これは少し大きい市で毎年18人の方の命が無くなっているとイメージするとその異常な状況を実感できるかと思います。

さて、この時点で冒頭のツイートはそこまでズレた数値ではないようです。直近はまだしも、少し年月を遡れば確かに四捨五入で「1時間に4人自殺している」状況はありました。

ブラジルの殺人件数の推移

では、ブラジルの殺人件数は本当に1時間あたり2件なのでしょうか。

まとめてみると以下のような結果になりました。

時間
殺人件数
(総数)
殺人件数
(時間あたり)
1998
43,0594.92
1999
44,2135.05
2000
46,3115.29
2001
48,8975.58
2002
50,8105.8
2003
52,1995.96
2004
49,3865.64
2005
47,7695.45
2006
49,2705.62
2007
47,7445.45
2008
50,5645.77
2009
52,0625.94
2010
53,7636.14
2011
53,4956.11
2012
57,7806.6

出典 Wikipedia / 世界経済のネタ帳

このようにしてブラジルの殺人件数と時間あたりの数値を算出してみるとツイートで示す数値とは大きく異なります。元ネタが不明のためどのような計算根拠に基いているのかは分かりません。

集計期間が重複する1998年から2012年までの数値を見る限りは、1時間に日本の自殺者数の1.5倍から2倍程度の人数がブラジルで殺人の被害にあっている計算になります。

実は「日本の自殺リスク」と「ブラジルの殺人リスク」はほぼ同等

さて、確かに時間あたりで見るとこの2つに大きな差がありますが、ブラジルは日本の国土の20倍以上あるのです。時間という同じ母数の中で比較をすることに意味はありません。

というわけで、人口10万人あたりの「日本の自殺者数」と「ブラジルの殺人件数」を比べてみましたところ、実に驚きました。

それぞれの推移はこちら。

日本自殺者数
(10万人あたり)
ブラジル殺人件数
(10万人あたり)
差異
1997
19.3
1998
2625.90.1
1999
26.126.2-0.1
2000
25.226.7-1.5
2001
24.427.8-3.4
2002
25.228.5-3.3
2003
2728.9-1.9
2004
25.327-1.7
2005
25.525.8-0.3
2006
25.226.3-1.1
2007
25.925.20.7
2008
25.326.4-1.1
2009
25.826.9-1.1
2010
24.927.5-2.6
2011
2427.1-3.1
2012
21.829-7.2
2013
21.4
2014
20
2015
18.9

直近でこそ日本における自殺者数の減少により差が開いていますが、長らくこの2つの指標はほぼ拮抗していました。

つまり、日本では「自殺により人が死亡」しており、ブラジルでは同様の割合で「殺人により人が死亡」しているということです。

ランダムに生まれた私たちが死ぬというリスクを考えれば、ブラジルでも日本でも「死のあり方」が異なるだけで、「ブラジルが危険な国」という呼び方は相応しくないと言えるでしょう。もしそう呼ぶのであれば「日本も危険な国」と呼ばなければいけません。

同じリスクでも日本のそれは難易度高いと思う

直近の日本の自殺率が減少しているとはいえ、まだまだ高水準であることは間違いありません。

では、どちらの方が本当に私たちの生活を危険にさらすのかと考えた時に、僕は「日本の方が難しい状況にある」と思いました。もちろん専門家ではありませんが、公・私からのコントロールの困難さを想像した時に、どうしても自殺リスクの除去の方が難しいのではないかと思うのです。

”私”のコントロール

私たちはランダムに生まれながらも、その後の人生の中で一生懸命そのリスクをコントロールしようとします。自殺についても、殺人についても同様です。

例えば殺人であれば、「警備の厳しい住居に住む」「危険なエリアは避ける」「夜間の一人歩きはしない」「タクシーで移動する」といった方法があります。時に金銭はかかるものの、自らの努力によって前向きにリスクを一定程度落とすことができます。

しかし、自殺はどうでしょうか。金銭や健康、人間関係という要素はありながらも、そこから受ける精神的な影響を自分でコントロールすることは容易ではないと思います。社会の仕組みが一定の自殺リスクを与える中で、それを個人が解決するために講じられる手段はどの程度あるのか考えなければいけないでしょう。

”公”のコントロール

正直公のコントロールはどちらも難易度の高い問題だと思います。

自殺者の問題は行政と民間団体が長らく考え続けてきた問題です。

各個人で精神的に落ち込んでいる状況を解決出来ない時に、外部の人々がそれを助けることは可能だと思いますし、実際にホットラインの開設などの対策が打たれています。

一方で、犯罪は何によって抑制されるのかという問題は経済学者によって長らく研究されているテーマでもあります。街の景観の問題か、警察官の数の問題か、貧困の問題か、教育の問題か。根本原因が見えない中で殺人の件数を減少させることもまた難しいでしょう。

日本の「交番」を取り入れているブラジル。日本は何を学べるのか

実はブラジルでは現在日本の「交番」制度を取り入れる動きがあります。よく知られているように日本の治安は世界でもトップレベルです。この治安保持の仕組みに学ぼうというのがブラジル側の動きなわけです。

一方で、日本もブラジルから学ぶことのできる点は多くあると思います。「無理をしない」「いい加減」「家族の絆の深さ」「充実した地域コミュニティ」はブラジルの精神的な余裕を築き上げている大きなポイントでしょう。

もちろんこれをそのまま「真似」たところで、日本人の気質にはほとんど合わないでしょう。でも、会議室でぐだぐだと考えているよりは、彼らの社会がどのように構成されているのか、それを持続させているものは何なのかを知ることは十分な価値があるように思います。

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