ずっと行ってみたかった群馬県にある大泉町。
全国的に見ればほとんど知名度はないこの町だが、年に1回は地上波テレビに取り扱われているのではないかと思う。
その理由はとても単純で、誤解を恐れずに言えば、「奇妙な外観」を持った町であるからだ。私自身も同様にこの奇妙さに興味を持っていたことに相違ないが、それでも多少なりともその奇妙の裏と表を知っていたつもりだった。
そんな大泉町に知人が毎月訪問していることを知り、出不精な私には貴重な機会だと思い、一緒に随行させてもらうことになった。
ここに書くのは、人口4万人の群馬県の小さな町の1泊2日の訪問記であり、同時に日本で最も外国人比率が高い多様性に富んだ町の観光日記である。
群馬県大泉町とは
群馬県大泉町とは、正式には群馬県邑楽郡大泉町のこと。 邑楽郡とあるが、郡としての行政管理主体はおらず、群馬県直下の自治体ということになる。ここらへん東京出身者にはわかりにくいので念の為補記。
大泉町は群馬県と埼玉県の県境をつくる利根川沿いに位置している。利根川の向こうには日本で最も気温が高くなることで有名な埼玉県熊谷市がある。
主要な産業は製造業で、名だたる企業がこの小さな町に工場を持っている。必ずしも流通拠点としての優位性がないにも関わらずこうした企業を呼び込むことができたのは先人の努力の賜物であると現地の方は語っていた。
- パナソニック
- SUBARU(スバル)
- マルハニチロ
- 雪印ビーンスターク
- 凸版印刷
- 味の素冷凍食品
こうした企業からの税収が一定程度あるためか、町内の施設は非常に恵まれているように感じた。立派な野球場があったり、体育館もガラス張りであったり、羨ましさを感じる立派な施設がちらほら見えた。
工場に流れ込む外国人労働力。人口15%以上が外国籍を持つ異色の町。
今の時代、主要な若年労働者は地方から都市部へと出ていることが当たり前で、こうした労働力ありきの産業が中心となる町で、町内の産業を支えるのはとても大変なことだろう。
何しろ4万人の人口のうち、約6,700人は高齢者、約5,600人が年少人口(14歳以下)なのである。つまり残りの28,000人弱の労働人口で町を運営していかないといけないのである。(2010年時点)
そしてこの労働力の中心となっているのがブラジル人、他45ヶ国から来日した外国人なのだ。そしてその数なんと約7,700人(令和元年8月現在)。
時点は異なるが、全体人口は長期に渡り大きく変化しておらず、この外国人人口は7,700人は高齢者人口6,700人とほとんど同じであり、大泉町を歩けば65歳以上の方を見かける頻度と外国人の方を見かける頻度はほぼ同じということになる。
世界都市と呼ばれる東京に住んでいてもそうした経験はないかと思う。個人的な感覚でいえば渋谷駅前の交差点だけ切り取ればそういう世界があるかもしれないなと思う程度。
しかし東京と異なるのは、そこにいるのは欧米人ではなく、南米、アジアを中心とした国からやってきた移民であるということ。
大泉町の外国人人口とその比率は以下の通り。
国名 | 人口 | 構成比 |
ブラジル | 4,430 | 56.9% |
ペルー | 1,005 | 12.9% |
ネパール | 626 | 8.0% |
ベトナム | 256 | 3.3% |
フィリピン | 241 | 3.1% |
中国 | 219 | 2.8% |
インドネシア | 195 | 2.5% |
ボリビア | 176 | 2.3% |
韓国または朝鮮 | 98 | 1.3% |
インド | 83 | 1.1% |
その他 | 453 | 5.8% |
合計(2019年8月) | 7,782 | 100% |
多様な国からいわゆる出稼ぎとして来日した外国籍の労働者が、ここ大泉町ではとても大きな存在感を出している。
ここで少し驚かれたかもしれないが、日本から最も離れた国の一つであるブラジルの皆さんが最も多いのには理由がある。
時は遡ることバブル期の日本。当時、労働力不足に悩んでいた日本政府は、入国管理法改正改正により、日系3世までに「定住者」としての在留資格を付与した。
「日系」という名称にあまり馴染みのない方も多いかもしれないが、戦前から多くの日本人が様々な理由で世界で定住しており、彼らを1世、その子供を2世、さらに孫の世代を3世と呼ぶ。
彼らの中には日本国籍を持たずに在住国の国籍を持つようになる者も多いが、このようにして日系人とまとめることで、日本をある程度理解しており、またある種の親戚のような捉え方をされることで、特別に上記のような待遇を得た。
そして日系人が世界で最も多い国、それがブラジルなのだ。
詳しくは以下の記事を参照いただきたいが、1900年以降ブラジルをはじめとした南米諸国に日本人が職を求めて渡った歴史があり、この逆流ともいえる減少が約100年後に起きたのだ。
参考 なぜ日本人はブラジルへ。日本移民史料館で学んだ日系移民の歴史
西大泉はほぼブラジル。
さて、そんな大泉町であるが、これだけの外国人がいればコミュニティもできるし、それぞれの生活に合わせた食品が必要になる。
特に大泉の中でも西大泉には多くのブラジル人が住んでいることから、街の至るところでその様子が伺える。
西大泉駅は、東武鉄道小泉線の終着駅。館林駅で乗り換え、そこからさらに20分程度走ることになり、新宿から約2時間はかかる。
なお、小泉線は1時間に1本程度しか電車が来ないので、あらかじめ乗り換えの検索をしておかないと館林駅でとても待つことになる。
既にブラジル感が漂っている。
まずは荷物を置きに西大泉唯一のビジネスホテル「ホテル エンペラー」へと向かう。徒歩5分程度ととても近い。
受付には常時人がいないので、チン!と呼び鈴を鳴らせばすぐに誰かがやってくる。この日はチェックイン時間より早く到着したが、すんなりと部屋に通してもらえた。
少し古いホテルではあるが、部屋はとても綺麗に整えられている。 これで1泊朝食付きで5000円程度なので文句はない。
ちなみにこのホテルを選んだ(他に選択肢はないにしても)理由の一つが、自転車を無料で貸し出してくれるという点。西小泉、当然それなりに広く、歩いて移動するのは難しいのだが、このようにして電車でやってきた観光客でも楽しめるようになっているのはありがたい。
早速部屋を出て、まずは西大泉一番の見どころ「スーパータカラ」へ。
スーパータカラ(スーペルメルカド・タカラ太田店)
ここは地元に住むブラジル人御用達のブラジル食料品を取り扱うスーパーマーケット。
スーパーの中にいるのは99%ブラジル人で、提供されている食品、菓子、雑貨も99%ブラジル人向けのもの。一度はブラジルに行ったことのある人には興奮しかない、あの商品もこの商品もメジャーどころは結構揃っている。
今回、個人的に買い物をしたのはこちらの品々。あまり荷物にならないようにと多少我慢したので、本当はもっと色々買いたかったが我慢。
さて、実はスーパータカラの向かいにはもう一つ、スーパーマーケットがある。こちらは少し小さめの店舗ではあるが、こちらに行く理由がある。それは超コスパの高いレストラン。
キオスケ・シ・ブラジル
このなかにある「レストラン・カル」は質素なイートインのような雰囲気のレストランなのだが、ボリューム、味ともに文句のないおすすめのレストラン。
メニューはブラジル現地と同様に「メイン料理1品+サラダ+フェイジョン(豆のスープ)」で、メイン料理のバラエティも豊富。
無論、ここまで来たら食べるものは決まっていて、私はフェイジョアーダ(肉と豆の煮込み)、知人はピッカーニャ(イチボ/牛肉)のセットを選択。
14時ごろのランチだったのでとてもお腹を空かせていたのだが、すべて食べきると本当にお腹が膨れ上がる。イチボについては店員さんに聞いたところ250gもあるとのこと。
ピッカーニャ250gのランチセットが1,200円ですよ。やっすい。
フェイジョアーダも、塩味がガンガン効いていてブラジル現地で食べたあの味が見事に思い出される一品。
さて、お腹を膨らませたところで、知人がいつも立ち寄るというブラジリアンセンターへと移動。
ブラジリアンプラザ
ブラジリアンセンターはブラジルタウン大泉の象徴的な施設。日本で初めてのブラジル人向けのショッピングセンターとしてスタートしたそうだ。
しかしながら、リーマンショックによる景気悪化でテナントが撤退してしまったことで、現在では2階は閉鎖、1階にはいくつかのブラジル人が経営する店舗が入っているのみとなっている。
ただ、それでも町内のフリーマーケットが行われたりするなど、町民の交流の場として活躍している。
今回ここを訪れたのはブラジリアンプラザには「大泉町観光協会」が入っている ためで、大泉町の各種情報を協会の担当者の方から教えていただこうと思った。ブラジルタウンとしての大泉町のこれまでの歴史、なんだかんだで多数派の日本人と外国人達との関係、課題などなど。
ここは少し話が長くなりそうなので後述するが、なんだかんだで1時間以上雑談に付き合っていただいた。
駅からも徒歩圏内であり、大泉町の観光パンフレットなどが入手できるため、是非立ち寄ると良いだろう。ちょっとディープなブラジルスポットも教えてもらえる。
ド・パウロ(パステル屋)
その後も町内を自転車で周り、夕方になり少し小腹が空いた。スーパーで買物したお土産などを置くために一度宿に戻る。
ブラジルスーパー「タカラ」の近くにパステリア(パステル屋)があることを思い出し、おやつにと行くことにした。宿から歩いても大した距離ではない。
パステルはブラジルでは非常に馴染みのあるスナックで、小麦粉でつくられた揚げパイに肉や魚など様々なおかずを入れて食すというもの。
これをつまみに少し早いがビールをさくっと飲む。店内はやはりこちらもブラジル人と思しき方々のみ。店内のテレビもブラジルサッカー。
入り口近くにはブラジル人向けの掲示板があったりと、ブラジル料理が楽しめるただのレストランではなく、骨の髄までブラジル人の生活に浸ることのできる場所。こういう肌で感じるブラジルというのは日本ではなかなか味わうものができないことだろう。
ちなみにこちらでは、ハンバーガーなどの軽食も楽しむことができる。ちょっとした喫茶店として立ち寄ることもできるのでブラジルコーヒーを楽しみたいという方も是非。
さて、一杯飲んだところで食欲ともう少し飲みたいという気持ちが高ぶり、夜ご飯を食べに行こうと思い、観光協会で聞いたバーへ友人とタクシーで向かうことに。
Buddies Gunma(バッディーズ グンマ)
BuddiesGunma(バディーズグンマ)は小泉駅から3km少し、車で10分程度のところにあるバーレストラン。周囲は何もないポツンと置かれた箱で、知らないとなかなか行き着くことが難しそうだが、入ってみるとなかなかの雰囲気。
ステラとか日本で飲むことがあるとは。厳密にはベルギービールですが、ブラジルではかなりポピュラーなビール。
つまみに海老の炒めものやチップスを食べたところで、そこからカイピリーニャ2杯飲んで、さて最後にもう一杯とスタッフさんにおすすめの飲み物を聞いたとところ返ってきた答えがこれ。
これはカイピロナという飲み物で何かというと、カイピリーニャ+コロナの造語。そう、これグラスに継がれているのはカイピリーニャで、そこにコロナの瓶を突っ込んでいるのだ。
聞くだけでも恐ろしい飲み物だが、これがいける。
コロナのビールの苦さがカイピリーニャの甘さと相まってとても飲みやすい。グラスを飲むとコロナの水位が下がり、少しずつ混ざる仕様になっており、ゆっくりと飲む過程で味もまた変わるため面白い。
面白いのだけど、飲み終わってやはり最後には飲みつぶれた。
なお、こちらはスタッフは皆さんブラジル人のようで、お客さんも9割がブラジル人または外国人の様相。1組だけ日本人のマダム達が来店していた。
夜が深まれば深まるほどテーブルが埋まっていき、少し若者の匂いが立ち込めてきたため退散、ホテルへと戻った。
大泉だからこそできるイベント「活きな世界のグルメ横丁」
さて、二日酔いも冷めやらぬ翌朝、ホテルエンペラーで朝食を取り、ホテルで少し休んでから今回の旅の目的の一つ、「活きな世界のグルメ横丁」というイベントへと出かける。
このイベントはほぼ毎月末(年8回)大泉町で行われているグルメイベント。その名の通り世界中のグルメが一同に集まる。
冒頭にも述べたように大泉町はブラジルタウンとしても有名だが、一方で40カ国以上の外国の人が住む町でもある。この特徴を生かして様々な国の食文化を楽しめるようにと用意されたイベントなのである。
ブラジル料理は当然のこと、この日見ただけでもポルトガル料理、ペルー料理、パラグアイ料理、ネパール料理などニッチで美味しいごはんが並んでいた。そして嬉しいことにこういうイベントにありがちな特別価格ではなく、かなり買い求めやすい価格設定。
また中央のスタジオでは市民の方々のショーが行われる。無論、 大泉町にはサンバダンサーのチームがあり、 ここでもサンバダンスショーが行われていた。
こちらのイベントを昼過ぎまで楽しみ、帰路へと。
1泊旅行ではあったが、小さな町ということもあり、実はこれ以外にも色々と回って楽しむことができた。
今回、ブラジルタウンの紹介ということであまり書かなかったが、実は他にも観光施設がある大泉町。
一人旅には少しさみしいので、是非友人と訪れると良いと思う。
ブラジルを知っている方には、ほぼ懐かしのブラジルを思い出すことができる場所として、ブラジル未訪問の方には異国の地を楽しむことができる町として、おすすめの町だ。
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