急激な通貨安はなぜ起きたのか。大統領選だけではない、ブラジルレアル5つのリスク。

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2018年に入ってからブラジルのレアル安は急速に進んでいる。

6月現在、1レアル=約29円、1ドル=3.78レアルという水準は、年始にはまだ1レアル=34円~35円、1ドル=3.2レアルであった。約2割ほどの通貨安が半年で進行しているわけで影響は大きい。

通常の私達の感覚で言えば、半年間で1ドル100円が120円にまで円安に進んだようなものである。

日本であれば円安と聞いて景気回復を暗示するようなところがあり、またその原因は比較的外部環境に起因するところが大きいが、ブラジルのような発展途上の国の場合は深刻な事態の象徴である。

1つには、ブラジルは石油や自動車、機械関連部品の多くを海外からの輸入に依存しいてること。一般市民の生活にも、国内産業にも大きな影響を与え、ブラジルの経済を停滞させてしまう。

もう一つは、そもそもレアル安がブラジルが財政不安などブラジルという国そものへの不信感に起因しているためである。

円安は主にドル高、または新興国の経済発展に伴う資金流出に起因して起きることが多いため、景気向上と一体となるイメージがあるが、ブラジルのレアル安はそうした楽観的なシナリオをベースとしていない。

極端なことを言えばブラジルへの信頼が半年間で20%下落したとも言える現在の事態であるが、マーケットの評価は概して近視的なものであり、具体的に何が原因となっているか理解することが重要である。

主にブラジルという国を外からたまに眺めている方に向けて簡単に説明していきたいと思う。ブラジルでビジネスをしている方にとっては目新しさは何もない記事であること予めご了承頂きたい。

  

新興国ブラジルで通過安が進む5つの理由

世界的なドル高進行

そもそもドル高が進んでいるのはブラジルだけではありません。

ドル円も直近1ドル108円の水準からドル高円安に進み、ユーロドルも1ユーロ=1.2ドルから1.15ドルへ、ポンドも同様に1ポンド=1.4ドルから1.3付近まで下落している。

概してドル高が進んでいる理由の一つに長期金利の上昇がある。米国経済が多少なりとも好調で、株価、失業率ともに改善されている中で、FRB(連邦準備制度)理事会が金融の引き締めにかかろうとしている。

このような背景の中で米国債の長期金利が上昇しており、途上国に流れていた資金がアメリカに戻ってきているのである。そしてブラジルも同様で、これまでの投資資金がアメリカに逆流する過程で、レアルが売られ、ドルが買われている現状がある。

不安定なブラジル政府

無論、評価は相対的なもので、ブラジルがアメリカよりも投資すべき魅力的な国であれば、ここまでレアル安は進んでいなかったかもしれない。

しかしながら、ブラジル政府は直近世界に対して苦しい姿を露呈してきた。

ジウマ、ルーラと連続でブラジルの大統領経験者が国営石油企業ペトロブラスとの収賄により逮捕、起訴、さらには有罪判決にまで至っている。

その後を受けたミシェル・テメルの支持率はは地を這いつくようなレベルであり、7%という水準である。

一方で、ブラジル財政はこれまでの手厚い社会保障により収支バランスを失っている。

2010年台前半の成長の勢いは失われ、GDP成長はマイナスに陥り、財政収支もIMF推計で2018年は対GDPに対する赤字比率は▲8%の見込みである。

経済も行政も不安定な中で、ブラジルへの投資が増えることもなく、こうした内部環境もレアル安の一因となっている。

10月に予定される大統領選挙に対する不安

さて、2018年10月にはブラジル大統領選が予定されており、本来であればこうした状況が打破される希望を見出したいところである。

しかし、残念ながらその先行きは非常に不透明である。

話題となっているのは2つ。

なんと有罪判決を受け収監されているルーラ大統領がいまだに世間から広く支持をされており、一部の調査では支持率トップであるということ。無論出馬は難しいものの、このような人物の影響力が社会にまだ残存していることは海外から見た時にポジティブとはいえない。

では誰が現実的に有力かというと、ブラジル版ドナルド・トランプと名高いジャイル・ボルソナーロという人物が次期大統領になる公算が高いのである。

彼の名前で検索すると人種差別、性差別に関する発言があとを絶たない。極右的な政治家として知られる彼は、労働者の権利を制限する政策や旧軍事政権時代に対する支持を公にするなど、今後を見通すことが非常に難しい政治家であったりする。

これまでも、また将来についても、ブラジルは現在見通しが悪い状況が続いているのである。

トラック労働組合によるストライキの影響

一時的なものであったが、ブラジル経済に大きな打撃を与えたのが5月に発生したトラック運転手協会によるストライキであった。

トラック協会の運転手らは原油の価格引き下げを要求し、全国的なストライキに踏み切った。生活用品から食料品、ガソリンなどありとあらゆるものの流通が停止したこのストライキは11日間に渡った。

最初の5日間だけでも3,000億円の損害を与えたと言われるこのストライキも、海外投資家がレアルを忌避するには十分な理由だった。

ブラジルの株価指数ボベスパ指数は、ストライキが開始された5月21日の前営業日18日時点で83,081であったが、28日には75,355まで10%下落。その後も、ストライキは収束したにも関わらず、6月22日時点で70,640まで指数が落ち込んでいる。

アメリカが匂わせる貿易戦争に煙

最後に、レアルが当初の水準にまで戻らない理由のもう一つが、アメリカが世界中に対して進めている関税に関する問題である。

アメリカは鉄鋼を始めとして、輸入品に幅広く追加関税の設置を進めている。中国やEU、日本への影響が話題になりがちであるが、ブラジルにとっても悲観的なニュースである。

アメリカはブラジルの輸出先国のうち第1位であり、またアメリカからの輸入も多く、深い貿易関係にある。

アメリカがさらなる輸入制限を進めればブラジルへの影響は計り知れない。通貨安により輸出が促進されるところにブレーキがかかれば、ダブルでダメージを受けることとなる。

ブラジル中央銀行の介入により一旦底打ち。楽観できないが、年末には事態が見えてくるか

状況が良いとは到底言えない。現地でも輸入業者を始めとして、ビジネス関係者の動きは騒がしい。

ブラジル中央銀行はこの半年間の事態に対して、ドル売りレアル買いの市場介入を始めた。これで一旦レアル安の進行は収まっている。中央銀行の介入により反転するほどマーケットは甘くはないものの、国としての意向がマーケットに伝わったことは間違いない。

当面はアメリカの貿易政策と10月の大統領選挙が一つの節目になるはずだ。

ここが落ち着けば、株価もレアルも少しずつ改善に進むことを期待したい。

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