ブラジルで生活したり、レンタカーでドライブしたりすると、日本とのちょっとした違いに気づくことがあります。その一つが「自動車のヘッドライト(またはデイライト)の使い方」です。
ブラジルの高速道路(Rodovia)では、夜間はもちろん、昼間でも多くの車がライトを点灯して走行しています。日本では、トンネル内や悪天候時、夕暮れ時などを除けば、昼間にヘッドライトを点灯させる習慣は一般的ではありませんよね。
実はブラジルでは、2016年に法律が改正され、高速道路および一部の一般道において、昼間でも車両のライト(ロービームまたは専用のデイタイムランニングランプ)の点灯が義務化されました。違反した場合には罰金が科せられます。(※運用や対象道路は変更の可能性あり)
このような昼間点灯の義務化は、ヨーロッパの多くの国やカナダなどでも導入されています。しかし、日本ではなぜ義務化されていないのでしょうか? 今回は、この「クルマの昼間点灯」について、その目的や効果、そしてブラジルと日本の状況の違いについて掘り下げてみたいと思います。
クルマの昼間点灯(DRL)とは?
クルマの昼間点灯とは、その名の通り
昼間の明るい時間帯から、車両のライト類を点灯させること
を指します。英語では「Daytime Running Light」または「Daytime Running Lamp」と呼ばれ、頭文字をとって「DRL」と略されます。
その主な目的は、ヘッドライト(ロービーム)や専用のDRL(デイライト)を点灯させることで、他の車両や歩行者、自転車などに対して、自車の存在を早期に認識させ、視認性を高めることにあります。これにより、交通事故のリスクを低減させようという考え方です。
特に、欧州や北米など、日照時間が短い、あるいは曇天や雨天が多い地域で、その効果が期待され、早くから義務化が進んできました。近年、世界的にDRLの装着が広がっています。
昼間点灯(DRL)の効果は?
昼間にライトを点灯させることによる主な効果としては、以下のような点が挙げられます。
- 被視認性の向上: 他の交通参加者が、ライトを点灯している車両の存在に気づきやすくなる。特に薄暮時、悪天候時、逆光時などに効果を発揮。
- 距離感の把握: 点灯している車両の方が、点灯していない車両よりも近くに感じられる傾向があり、距離感を把握しやすくなる。
- 事故削減効果: 上記の結果として、特に対向車との衝突事故や、歩行者・自転車との事故の削減に効果があるとされています。多くの研究で、DRL装着による事故率の低減効果が報告されています。
確かに、ライトが点灯している方が、特に意識していなくても車両の存在に気づきやすいというのは感覚的にも理解できます。ドライバーの注意喚起だけに頼るのではなく、常時点灯によって安全性を高めようというのが、義務化の背景にある考え方です。
なぜ日本では「ヘッドライト」の昼間点灯が義務化されていないのか?
ブラジルや欧州などとは異なり、日本ではヘッドライト(ロービーム)の昼間点灯は義務化されていません。過去には義務化の議論もありましたが、現在に至るまで導入が見送られています。その理由として、主に以下の点が挙げられてきました。
1. 日照条件と緯度の違い
昼間点灯が早期に義務化された北欧などの国々は、日本よりも高緯度に位置し、年間の日照時間が短く、太陽の高度も低い傾向にあります。太陽の位置が低いと影が長くなりやすく、全体的に薄暗い環境になりがちです。

太陽高度が低いと影が長くなる(画像出典:JAF)
このような環境では、昼間でもライトを点灯させることによる被視認性向上の効果が大きいと考えられます。一方、日本はこれらの国々に比べて緯度が低く、比較的日照条件が良い(昼間は明るい)ため、常時ヘッドライトを点灯させる必要性は相対的に低い、とされてきました。
(ちなみに、ブラジルは南半球に位置し、国土の大部分は日本よりも低緯度(赤道に近い)です。それでも義務化に踏み切った背景には、交通死亡事故の多さや、欧米の安全基準への追随といった要因もあるのかもしれません。)
2. 二輪車(バイク)の被視認性への影響
日本では、自動車のヘッドライト昼間点灯義務化に慎重なもう一つの理由として、二輪車(バイク)との関係が挙げられてきました。
二輪車は、自動車に比べて車体が小さく、他の車両から認識されにくいという特性があります。そのため、日本では1998年以降に製造された二輪車には、エンジン始動と同時にヘッドライト(または専用のDRL)が常時点灯することが義務付けられています(消灯スイッチがない)。これは、二輪車の被視認性を高め、事故を防止するための措置です。
もし四輪車も一律に昼間ヘッドライトを点灯するようになると、せっかくライトで目立たせている二輪車が、多数の四輪車のライトの中に埋もれてしまい、かえって認識されにくくなるのではないか、という懸念があったのです。これが、四輪車のヘッドライト常時点灯義務化に慎重な意見の大きな根拠となっていました。
参考(過去の議論): 香川県 – 昼間点灯について
日本の現状:「デイライト」標準装備車の急増
しかし、近年日本の状況は大きく変化しています。国土交通省は、2016年に**「デイタイムランニングランプ(DRL)」**に関する保安基準を策定し、日本でもDRLの装着が正式に認められました。これ以降、多くの国産車・輸入車の新型モデルに、DRLが標準装備されるようになっています。
ここで重要なのは、この「DRL(デイライト)」は、従来の「昼間にヘッドライト(ロービーム)を点灯する」こととは異なるという点です。
- DRL(デイライト):
- 昼間の被視認性向上を主目的とした専用のライト。
- ヘッドライト(ロービーム)よりも低い光度で、消費電力も少ない。
- 対向車や歩行者にとって眩しすぎないように設計されている。
- エンジン始動と連動して自動点灯し、ヘッドライト点灯時や夜間には減光または消灯するものが多い。
- 主に白色LEDが使われることが多い。
- 昼間のヘッドライト(ロービーム)点灯:
- 本来は夜間走行用のライトを昼間に使う。
- DRLに比べて光度が強く、消費電力も大きい。
- 対向車にとっては眩しく感じることがある。
現在、日本で普及が進んでいるのは、この専用の「DRL」です。これにより、「二輪車の被視認性が低下する」という従来の懸念は、DRLの光度や設計を考慮すると、ヘッドライト点灯の場合ほど大きな問題にはならない可能性も指摘されています。
また、国レベルでの義務化はないものの、一部の自治体や交通安全協会、運送事業者などが、交通事故防止のために「デイライト運動」として昼間のライト点灯(ヘッドライトまたはDRL)を推奨する動きは依然として存在します。
まとめ:安全意識と技術の進化
ブラジルで義務化されている「昼間のライト点灯」と、日本で普及が進む「DRL(デイライト)」は、どちらも車両の被視認性を高めて交通事故を減らすという目的は共通しています。しかし、その導入経緯や法的な位置づけ、具体的な方法(ヘッドライトか専用灯か)には違いがあります。
日本では、日照条件や二輪車との関係からヘッドライトの常時点灯義務化には至っていませんが、技術の進化により、より効率的で周囲への影響も少ないDRLが普及し始めています。これは、安全に対する意識の高まりと、技術的な解決策が組み合わさった結果と言えるでしょう。
今後、自動運転技術の進化なども含め、自動車のライトの役割や規制はさらに変化していく可能性があります。海外の交通ルールに触れることは、日本の交通安全について改めて考える良い機会にもなりますね。
ご質問はこちら Comment/Question