ブラジルの北西部に位置するバイーア州。その中でも多くの観光客を惹きつけるのがサルバドール。
ブラジル最初の首都でもあるサルバドールは、ポルトガル人が入植した当初、砂糖の大規模プランテーションによる労働力としてアフリカから多くの奴隷が迎え入れられたことから、今日においても黒人系ブラジル人が多く住んでいる地域として有名です。
サルバドールには奴隷やアフリカ系文化に由来した観光資源が多くありますが、その中でも特にこのアフリカ系の文化を色濃く残したものが「カンドンブレ(Candomblé)」と呼ばれる民間信仰です。
カンドンブレは原則として、現地民らによる密教であり、一部の観光ショーを別として外部にはほとんど公開されていませんが、今回現地のブラジル人を介してファベーラ(貧民街)でその儀式を垣間見ることができました。また、通常の観光では気づかないサルバドール市内に存在する隠れカンドンブレ関連施設でカンドンブレについての学びを深めてきましたので、こちらで詳細に解説していきたいと思います。
カンドンブレ(Candomblé)とは
カンドンブレ(Candomblé)はブラジルの中でも、リオデジャネイロ州とバイーア州を中心に発展、残っている黒人密教の一つです。人口は200万人程度と言われています。
由来はアフリカの土着信仰であり、アフリカからの奴隷とともにブラジルに伝わった宗教ですが、白人のカトリック系キリスト教からの迫害を逃れるため、キリスト教に改宗した体裁の下、密教として独自の発展を遂げたとされています。
黒人地域、中でも貧困層を中心に信仰されていることから、ファベーラなどにテヘイロ(Terreiro/カンドンブレ教会)が点在しており、ここで信仰者たちが集まり、儀式を執り行っている。
カンドンブレは非常にスピリチュアルな宗教で、この儀式の中で神が信者に乗り移り、神に代わり予言をしたりする。太鼓の音を背景に踊り、伏したり、これが3時間程度続くのである。
八百万の神。カンドンブレの神とは。
カンドンブレは多神教。そして神に対する概念の持ち方が日本の神道のそれに結構近いのです。
神は総称してオリシャ(Orixa)と呼ばれ、最高神オシャラ(Oxala)を中心に多くの神が存在しているのですが、例えば「川の神」「海の神」「稲妻の神」など日本の八百万の神の考え方に似ています。それぞれに神が存在しており、また神々には司る「曜日」や「色」「自然現象」があります。
例えば、オシュン(Oxum)は「川の神」であるが、出産や女性の美を司っている。そのため、バイーアの女性はこのオシュンの色である黄色の首飾りをつけたりする。他の神にも色があり、それぞれの色を模した首飾りが存在している。
代表的なオシャラ(Oxala)の特徴
神 | 色 | 自然現象 |
Oxala | white/light blue | 空・天国 |
Xango | red/maroon | 火・明るさ |
Iansa | red/maroon | 火・風・雷 |
Ossain | green/white | 森林・植物薬 |
Oxossi | green/sky blue | 森林・狩り |
Ogum | dark blue | 鉄 |
Oxumare | sky blue/green/gold | 虹 |
Oxum | gold or yellow | 淡水 |
Yemanjá | transparent/green/white | 海 |
Nana | dark blue and white | 濁水 |
Omolu | black and white/red | 地球 |
ファベーラのテヘイロ(カンドンブレ教会)に行って儀式を生体験してきた
今回訪れたのはサルバドール市内にあるファベーラ・ペルナンブエス(Pernambues)。
先に断っておくと、ブラジルのファベーラは決して外国人だけで立ち入ってはいけない場所です。貧民街であるここは、現地ブラジル人でさえも近寄らない危険地域であり、命の危険も十分にあります。マフィアが目を光らせており、警察との抗争も少なくありません。
今回、最近までこのファベーラに住んでいたブラジル人と現地で知り合うことができ、彼の同行の下で入っています。
ファベーラに入り、15分ほど坂道を登ったところにカンドンブレ教会がありました。教会といっても、地域の集会所くらいの非常に小さな施設です。
入り口を入ってすぐのところに2箇所、司祭のみが入室できる小さな小屋があります。中の写真は撮影禁止でしたので、ちらっと見えただけですが、ろうそくの明かりのみの中に信仰対象となる神像が所狭しと並べられていました。
さて、上の画像の奥に人形が置いてあるのが分かるでしょうか。仲介してくれたブラジル人の説明によれば、これは悪魔を押し込むための入れ物なのだそう。この人形が他にも2体ほど外においてありました。
他に目についたものとしては、身体を清めるための枯葉につけこまれた水がたっぷりと入ったタンク。写真を撮り忘れてしまいましたが、これも儀式に利用するとのことでした。
そしてこの階段を登った先に祈祷所があります。内観の全体像は以下のような施設。
左右の壁には神々の絵が名前とともに描かれており、奥に祭壇が設置されている。神々に囲まれて儀式を行うというわけだ。儀式が始まるまでは何ということはなく、ご覧の通り女の子がひんやりした腰かけで寝ていました。
祭壇を近くで見てみると驚きを隠せず。明らかにアフリカ系ではなく、欧米のキリスト教の匂いのする像が数体飾られていたのです。これこそがカンドンブレの真骨頂であり、アフリカ系土着宗教をベースとしながらも、他の宗教を取り入れながら、ある意味でごちゃごちゃしている宗教なのです。
しかも、カンドンブレはそれぞれの地域の文化や在住民族の宗教などを取り込んでいるため、地域によってさらに特色や違いがあったりするそうなのです。普段目にしている宗教とは恐ろしくかけ離れていながらも、「宗教」とは何なのか、改めて深く考えさせられます。
さて余談ですでが、この時6時半。儀式は8時ころから始まるとのことで、仲介人のブラジル人の知人たちと一杯ひっかけに近くのバーへとでかけました。ファベーラのバーとはどんなところかと行ってまたびっくり。
こちらで現地のブラジル人たちと1時間ほど酒を嗜み、また集会所へ。
もうすぐに儀式が始まるとのことで、司祭の皆さんが少し慌ただしそうにしていました。
そして、この後、儀式が始まりました。
先述の通り、黒人密教であるカンドンブレは本来は外部の人が立ち入ることはなく、さらに見学できたとしても写真撮影などはできないことが一般的です。
しかし、今回特別に許可を頂き、一部撮影をさせて頂きました(一部食い違いがあり、ある司祭の方にかなり怒られましたが)。
儀式は男女の信者たちが、司祭の発声と楽器演奏に合わせて、時計回りに会場を回りながら踊り進みます。
かなり動きが激しく、ご覧のように体全身を動かして踊りながら、定位置で床に伏して何度もお辞儀をしたりしています。
と、画像で説明されてもイメージがつきにくいと思い、今回短編ながら動画も撮影をしておりますので、こちらをご覧ください。
前半は多少静かに進みながらも、時間が経過するにつれて、音楽も動きもどんどん激しくなっていきます。
この日はこうした儀式が2時間以上行われるとのことでしたが、ファベーラのど真ん中であまり遅い時間まで滞在するのもリスクがかなり高くなるため、30分程度見学して退出しました。
ちなみにカンドンブレ、さらに進むと以下のように神が憑依をしたりして、さらに盛り上がるのですが、命には代えられずこの日はここまで。
サルバドール市内で意外と知らないカンドンブレに関するお土産や博物館
サルバドール観光に来て、カンドンブレまで見学したという方はあまり多くないかと思います。一部のショーを除いてはコミュニティの中で行われる非公開儀式であるため、ガイド等を利用しないと見学できないのですが、実はサルバドールにはカンドンブレに関連した資料を見学できる博物館などがあります。
カンドンブレをより深く知りたいという方はこうした場に足を運んで見るのも良いかと思います。
バイーア記念館(Memorial das Baianas)
バイーアの風俗に関する博物館です。
こちらでは、アフリカの写真なども交えながら、食事や衣服に関する展示がされているのですが、その一部はまさにカンドンブレに関するもの。カンドンブレの人形や装飾を見学することができます。
上述したオシャラ神の色を模した首飾りはこのようなもの。市中のお土産屋で同様のものが販売されていますので、購入したい方はそちらでどうぞ。
15分もあれば見学できる小さな博物館で、街の中心にありアクセスも良いため、中心は一通り見たなと思ったら是非立ち寄ってみてください。
街の中心にあるセー広場とエレベーターの間に展望台のような場所があり、海に向かって左手にあります。
バイーア料理文化博物館(Museu da Gastronomia Baiana)
こちらもなかなか見応えのある博物館です。
ブラジルの2大料理と呼ばれるバイーア料理に関する博物館で、独自文化が生んだ食文化が紹介されています。この中にはカンドンブレの儀式で食される料理一式のサンプルやカンドンブレの儀式に関する展示がされています。バイーア料理のメニューも見ることができますので、是非一読してみてください。
ちなみにカンドンブレでは、信者を祝福する際にポップコーンを頭からかける風習があるそうです。
場所は、マイケル・ジャクソンの「They Don’t Care About Us」のプロモーションビデオの舞台となったことで有名なペウリーニョ広場の坂を下る途中、右側にあります。
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